不肖
「不肖ながら一生懸命務めさせていただきます」などのように使う「不肖」という言葉。
「不肖」は、音読みで「ふしょう」と読みます。
「不肖」とは、どのような意味の言葉でしょうか?
この記事では「不肖」の意味や使い方や類語について、小説などの用例を紹介しながら、わかりやすく解説していきます。
不肖の意味
「不肖」には次の四つの意味があります。
1 取るに足りないこと。未熟で劣ること。また、そのさま。
2 父に、あるいは師に似ないで愚かなこと。また、そのさま。
3 不運・不幸であること。また、そのさま。
4 一人称の人代名詞。自分をへりくだっていう語。(出典:デジタル大辞泉)
それぞれの意味、使い方、類語については下記の通りです。
不肖の意味①「取るに足りないこと。未熟で劣ること。また、そのさま。」
「不肖」の一つ目の意味は「取るに足りないこと。未熟で劣ること。また、そのさま。」です。
一言で言い換えれば、愚かなことです。
「不肖ながら」として、「未熟ですが」「愚かですが」という意味になり、自分をへりくだるような状況で用いられます。
小説などでの具体的な使い方・例文や類語は下記の通り。
使い方・例文
・また不肖ながらこの渋沢を見込んで、三井家との関係を深くしたのも三野村であった。
(出典:小堺昭三『明治の怪物経営者たち』)
・私も不肖ながら仏教を真実に信じている一人である。
(出典:河口慧海『チベット旅行記(下)』)
・不肖ながらわたしは父上が死ぬのを知りながらのがれることは不本意です。
(出典:滝沢馬琴『里見八犬伝 巻1』)
類語
・不才・不材・無才(ふさい)
意味:才のないこと。才能の乏しいこと。役に立たないこと。また、その人。無骨。また、自分の才能をへりくだっていう語。(出典:精選版 日本国語大辞典)
・拙い(つたない)
意味:能力が劣っている。ふつつか。(出典:デジタル大辞泉)
・不束(ふつつか)
意味:気のきかないさま。行きとどかないさま。(出典:デジタル大辞泉)
不肖の意味②「父に、あるいは師に似ないで愚かなこと。また、そのさま。」
「不肖」の二つ目の意味は「父に、あるいは師に似ないで愚かなこと。また、そのさま。」です。
「肖」という漢字は、訓読みで「肖る(あやかる)」となり、「似せる」「感化されて同じ状態になる」というような意味を持っています。
それに「不」という否定がついていることで、優れた父や師を持ち、その良い影響を受けられるような環境にありながらも同じようにはなれなかった、という意味になります。
使い方には注意が必要で、例えば自分息子に対して「不肖の息子」というような表現をするのは間違いです。
「自分は優れているのに、ダメな息子で・・・」と自画自賛していることになってしまいます。
自分が子の立場で、父や師をたてる場合には用いることができます。
また、他人の親子や師弟関係の人に対して使うのは、失礼になってしまう場合があるので、使う場合は注意が必要です。
小説などでの具体的な使い方・例文や類語は下記の通り。
使い方・例文
・不肖の息子の、それがこの世に生をさずけてくれた父に対する今の気持ちだった。
(出典:長尾三郎『生き仏になった落ちこぼれ』)
・それにひきかえ、この息子は、その父の子としては、不肖に過ぎた。
(出典:高木彬光『わが一高時代の犯罪』)
・わかくして死んだが、孔子の子としては不肖の子であつたらしい。
(出典:下村湖人『現代訳論語』)
類語
・出来損ない(できそこない)
意味:能力などが人並みでないことをののしっていう語。(出典:デジタル大辞泉)
・野育ち(のそだち)
意味:行儀や作法などのしつけをされずに、放任されて育つこと。また、そのような人。(出典:デジタル大辞泉)
・馬鹿息子(ばかむすこ)
意味:愚かな息子。愚息。(出典:精選版 日本国語大辞典)
不肖の意味③「不運・不幸であること。また、そのさま。」
「不肖」の三つ目の意味は「不運・不幸であること。また、そのさま。」です。
②で述べた通り、「肖」は訓読みで「肖る(あやかる)」となり、良い影響を受けて同じ状態になることを言います。
「不」という否定がついていることで、良い影響を受けられなかった、つまりは不運・不幸という意味になります。
小説などでの具体的な使い方・例文や類語は下記の通り。
使い方・例文
・なぜならわが身の不肖、わが身の不幸の記憶は殆ど私を去ったことがないからだ。
(出典:ベルナノス『田舎司祭の日記』)
・そんなお方にくらべられたら、途方もない、不肖な子孫ではあったろうよ。
(出典:吉川英治『私本太平記』)
・身分の卑しい母が産んだ不肖の娘だ、と思っているのだ。
(出典:水野良『ロードス島伝説 太陽の王子、月の姫』)
類語
・薄倖・薄幸(はっこう/はくこう)
意味:ふしあわせなこと。また、そのさま。(出典:精選版 日本国語大辞典)
・不運(ふうん)
意味:運の悪いこと。また、そのさま。(出典:デジタル大辞泉)
・悲運(ひうん)
意味:運命が開けないこと。運がないこと。ふしあわせ。(出典:デジタル大辞泉)
不肖の意味④「一人称の人代名詞。自分をへりくだっていう語。」
「不肖」の四つ目の意味は「一人称の人代名詞。自分をへりくだっていう語。」です。
自分自身のこと謙遜して「未熟な私」「愚かな私」として指し示す代名詞です。
ビジネスの場面などで男性が使います。
小説などでの具体的な使い方・例文や類語は下記の通り。
使い方・例文
・そのときは、不肖児島も一兵卒として参加することにやぶさかではない。
(出典:山田風太郎『ラスプーチンが来た 山田風太郎明治小説全集11』)
・それで責任を求められるなら、不肖、この海江田が全て責任を取るッ!!!
(出典:竜騎士07『ひぐらしのなく頃に 7 皆殺し編』)
・とはいえまだ不肖の胸には必勝の策も得られず、確たる戦法も立っておりません。
(出典:吉川英治『三国志』)
類語
・小生(しょうせい)
意味:一人称の人代名詞。男性が自分をへりくだっていう語。多く、手紙文に用いる。(出典:デジタル大辞泉)
・愚生(ぐせい)
意味:一人称の人代名詞。主に書簡文で、男性が自分をへりくだっていう語。(出典:デジタル大辞泉)
・小弟(しょうてい)
意味:一人称の人代名詞。年長者に対して、自分をへりくだっていう語。(出典:デジタル大辞泉)