寄る
「店に寄る」などのように使う「寄る」という言葉。
「寄る」は、訓読みで「よる」と読みます。
「寄る」とは、どのような意味の言葉でしょうか?
この記事では「寄る」の意味や使い方について、小説などの用例を紹介しながら、わかりやすく解説していきます。
寄るの意味
「寄る」には次の七つの意味があります。
1 ある人・物やある所に向かって近づく。近寄る。
2 1か所に集まる。一緒になる。
3 ある所へ向かう途中で、他の所を訪れる。立ち寄る。 4 片方の端へ近づく。また、一方の側にかたよる。 5 もたれかかる。 6 数が加わる。多くなる。重なる。
7 考えがそこに至りつく。思い及ぶ。 8 相撲で、組んだ体勢で相手を押し進む。 9 相場で、立ち会いの最初の取引が成立する。(出典:デジタル大辞泉)
「寄る」には他の意味もありますが、上記の意味で使うことがほとんどです。
それぞれの意味や使い方については下記の通りです。
寄るの意味①「ある人・物やある所に向かって近づく。近寄る。」
「寄る」の一つ目の意味は「ある人・物やある所に向かって近づく。近寄る。」です。
例えば、「木陰側に寄る」で、「木陰の方へ近づく」という意味になります。
小説などでの具体的な使い方は下記の通り。
使い方・例文
・ただそばに寄るだけでそれは彼女が望んでいる何かの表現を意味した。
(出典:島尾敏雄『出発は遂に訪れず』)
・彼は子供が眠ってる寝台の近くに寄っていって、喜びの情に震えていた。
(出典:ユゴー・ヴィクトル『レ・ミゼラブル』)
・そして緑色の怪物の中で、隊長らしく見える者の方へつかつかと寄った。
(出典:海野十三『宇宙戦隊』)
寄るの意味②「1か所に集まる。一緒になる。」
「寄る」の二つ目の意味は「1か所に集まる。一緒になる。」です。
例えば、「老若男女が寄っている」で、「老若男女が1か所に集まっている」という意味になります。
小説などでの具体的な使い方は下記の通り。
使い方・例文
・五六人寄って、火鉢を囲みながら話をしていると、突然一人の青年が来た。
(出典:夏目漱石『永日小品』)
・近所から寄って来た人々と力を協せて、母親はやっと娘を柱に縛りつけた。
(出典:徳田秋声『爛』)
・化物屋敷では五六軒寄って一つの台所を持っているのだそうだ。
(出典:夏目漱石『満韓ところどころ』)
寄るの意味③「ある所へ向かう途中で、他の所を訪れる。立ち寄る。」
「寄る」の三つ目の意味は「ある所へ向かう途中で、他の所を訪れる。立ち寄る。」です。
例えば、冒頭の「店に寄る」は「目的地に向かう途中、店に訪れる」という意味になります。
小説などでの具体的な使い方は下記の通り。
使い方・例文
・お花は帰りに深川のお若の家へ寄って、病気の様子をみて来ると言った。
(出典:岡本綺堂『両国の秋』)
・最初鈴一人だった旅客は、三つの港に寄るうちに八人ほどに増えていた。
(出典:小野不由美『十二国記 6 風の万里 黎明の空(上)』)
・ということは、彼女はどこにも寄らずに直接この部室に来たことになる。
(出典:三上延『シャドウテイカー1 黒の彼方』)
寄るの意味④「片方の端へ近づく。また、一方の側にかたよる。」
「寄る」の四つ目の意味は「片方の端へ近づく。また、一方の側にかたよる。」です。
意味①と同じ使い方をしますが、「壁際に寄る」というように「端の方に近づく」という意味で使います。また、「部屋の北側に寄っている」のように「一方に人や物が偏っている」という使い方をします。
小説などでの具体的な使い方は下記の通り。
使い方・例文
・壁に寄った隅の方のベッドには死人が後向きに寝かせてありました。
(出典:大倉燁子『耳香水』)
・政雄は反響があったと思ったので、三足ばかり右の方へ寄って待っていた。
(出典:田中貢太郎『女の怪異』)
・それは最初の三部隊のなかで西寄りにいちばん高空を飛ぶ部隊だった。
(出典:アン・マキャフリイ『パーンの竜騎士シリーズ(全16巻) 9 竜の貴婦人〔上〕』)
寄るの意味⑤「もたれかかる。」
「寄る」の五つ目の意味は「もたれかかる。」です。
この場合の「寄る」を簡単に説明すると、「何かに体を預ける」という意味があります。例えば、「背中を壁に寄った」で「背中を壁に預けた」という意味になります。
小説などでの具体的な使い方は下記の通り。
使い方・例文
・彼女は私の胸へぐんぐん寄りかかってき、全身の重みをぶっつけてきた。
(出典:豊島与志雄『孤独者の愛』)
・春木は、岩にぴったりと寄りそったまま、身体を右の方へ移動していった。
(出典:海野十三『少年探偵長』)
・建物の壁のそこここに、黒いローブ姿の遊牧民が寄りかかっていた。
(出典:エディングス『エレニア記2 水晶の秘術』)
寄るの意味⑥「数が加わる。多くなる。重なる。」
「寄る」の六つ目の意味は「数が加わる。多くなる。重なる。」です。
例えば、「木の下には、葉が寄っている」で、「木の下には、葉が重なっている」という意味になります。また、「年が寄る」で「年をとる」、「皺が寄る手」で「皺が多い手」という意味になります。
小説などでの具体的な使い方は下記の通り。
使い方・例文
・叔父御も次第に年が寄って、この頃は思うように稼業もならぬと言うていた。
(出典:岡本綺堂『玉藻の前』)
・黒い木の枝の先には、皺寄った小さな手のように葉が開いていた。
(出典:ロラン・ロマン『ジャン・クリストフ』)
・彼の眼つきは冷酷になり、額には皺が寄り、凶暴な勇気で口が曲がった。
(出典:アレクサンドル・デュマ/石川登志夫訳『鉄仮面(上)』)
寄るの意味⑦「考えがそこに至りつく。思い及ぶ。」
「寄る」の七つ目の意味は「考えがそこに至りつく。思い及ぶ。」です。
例えば、「思いも寄らない出来事」で「考えもしなかった出来事」という意味になります。
小説などでの具体的な使い方は下記の通り。
使い方・例文
・少年は、その日は思いも寄らぬたくさんな金を、人々からもらいました。
(出典:小川未明『石をのせた車』)
・まさか、人間の方から挑戦してくるとは思いも寄らなかったのだろう。
(出典:吉野匠『レイン外伝 仄暗き廃坑の底で』)
・「でも何か思いも寄らぬことがあるのでしょうね」 とも言っていた。
(出典:与謝野晶子『源氏物語』)
寄るの意味⑧「相撲で、組んだ体勢で相手を押し進む。」
「寄る」の八つ目の意味は「相撲で、組んだ体勢で相手を押し進む。」です。
この「寄る」は、相撲で使われる言葉になります。例えば、「寄り勝った」で「まわしを掴んだまま相手を土俵の外まで押し進めて勝った」という意味になります。
小説などでの具体的な使い方は下記の通り。
使い方・例文
・勝敗判定のルールも子供なみで、立派に相手を寄り倒しても、足の指先が土俵からチョイと出たために負けたりする。 (出典:坂口安吾『明日は天気になれ』)
・オバサンは有無を言わさぬ怒濤のがぶり寄りで、ぼくの個室の中へどかどか入って来た。 (出典:原田宗典『東京困惑日記』)
・反り身になるまでは例の形だが、それでずるずると寄り切られてばかりいた。 (出典:色川武大『なつかしい芸人たち』)
寄るの意味⑨「相場で、立ち会いの最初の取引が成立する。」
「寄る」の九つ目の意味は「相場で、立ち会いの最初の取引が成立する。」です。
この「寄る」は、株式で使われる言葉になります。例えば、「この銘柄は寄らなかった」で「この銘柄での最初の取引は成立しなかった」となります。
小説などでの具体的な使い方は下記の通り。
使い方・例文
・本日の寄り付きが始まった。取引の結果は寄りだった。
・A社の株を買いたかったが、売りに出している所がなかったため寄らなかった。
・午前の取引は寄らなかったが、午後の取引は寄ることに成功した。