さながら
「じっとしている姿は、彫像さながらだ」などのように使う「さながら」という言葉。
「さながら」とは、どのような意味の言葉でしょうか?
この記事では「さながら」の意味や使い方について、小説などの用例を紹介しながら、わかりやすく解説していきます。
さながらの意味
「さながら」には次の四つの意味があります。
1 すでに存する事物、事態が不変の姿であるさまを表わす。そのまま。もとの通り。
2 すでに存する事物、事態が量的に不変であるさまを表わす。そのまま全部。全部そっくり。 3 文脈上または心理的に問題になっている事物、事態を、既知の事物、事態になぞらえるときの、同一感を表わす。まるで。あたかも。
4 先行する事実を肯定しながら、それと両立しにくい一方の事実を述べるのに用いる。そうは言うものの。そうだと言っても。かと言ってやはり。(出典:精選版 日本国語大辞典)
それぞれの意味や使い方については下記の通りです。
さながらの意味①「すでに存する事物、事態が不変の姿であるさまを表わす。そのまま。もとの通り。」
「さながら」の一つ目の意味は「すでに存する事物、事態が不変の姿であるさまを表わす。そのまま。もとの通り。」です。
この「さながら」を簡単に説明すると、「変わらない」という意味があります。例えば、「地元の景色はさながらだ」という文で「地元の景色は変わらない」という意味になります。
小説などでの具体的な使い方は下記の通り。
使い方・例文
・存在して、しかも存在のさながらの姿より隔てられているという嘆き。
(出典:中井正一『絵画の不安』)
・平一は過ぎた一夜の事をさながらに一幅の画のように心に描いてみる。
(出典:寺田寅彦『障子の落書』)
・現世の故郷はうつり変っても画の中に写る二十年の昔はさながらに美しい。
(出典:寺田寅彦『森の絵』)
さながらの意味②「すでに存する事物、事態が量的に不変であるさまを表わす。そのまま全部。全部そっくり。」
「さながら」の二つ目の意味は「すでに存する事物、事態が量的に不変であるさまを表わす。そのまま全部。全部そっくり。」です。
この「さながら」を簡単に説明すると、「物事の量に変わりがない」という意味があります。例えば、「集めていたコレクションが、さながら置いてあった」という文で「集めていたコレクションが、そのまま欠けることなく置いてあった」という意味になります。
小説などでの具体的な使い方は下記の通り。
使い方・例文
・如何なる悪魔の二重三重の底意でもさながらにその鼻に写し出されるのであります。
(出典:夢野久作『鼻の表現』)
・その人魚姫の運命が、さながらに母の身の上へ落ちて来たのでござります。
(出典:国枝史郎『レモンの花の咲く丘へ』)
・将来一切の生命の共同の祖先となるべき元始細胞の大群集を、さながらに見渡し得るであろう。 (出典:夢野久作『ドグラ・マグラ』)
さながらの意味③「文脈上または心理的に問題になっている事物、事態を、既知の事物、事態になぞらえるときの、同一感を表わす。まるで。あたかも。」
「さながら」の三つ目の意味は「文脈上または心理的に問題になっている事物、事態を、既知の事物、事態になぞらえるときの、同一感を表わす。まるで。あたかも。」です。
この「さながら」は、自分の見知った物事に似ていることを表しています。例えば、「この激しい雨は、さながら滝のようだ」という文で「この激しい雨は、まるで滝のようだ」という意味になります。
小説などでの具体的な使い方は下記の通り。
使い方・例文
・それはさながら群がるとらの前にでた羊のごとく弱々しい態度であった。
(出典:佐藤紅緑『ああ玉杯に花うけて』)
・かれは顔色を変えて、さながら駄駄ッ子か気違いのように迫るのである。
(出典:岡本綺堂『恨みの蠑螺』)
・ボハールは、さながら白昼に幽霊でも見たかのように顔面蒼白となった。
(出典:E・R・バローズ『創元版/ペルシダー・シリーズ(全7巻) 3 海賊の世界ペルシダー』)
さながらの意味④「先行する事実を肯定しながら、それと両立しにくい一方の事実を述べるのに用いる。そうは言うものの。そうだと言っても。かと言ってやはり。」
「さながら」の四つ目の意味は「先行する事実を肯定しながら、それと両立しにくい一方の事実を述べるのに用いる。そうは言うものの。そうだと言っても。かと言ってやはり。」です。
例えば、「今は物価が高い。さながら、好きなものは食べたい」で「今は物価が高い。そうは言うものの、好きなものは食べたい」という意味になります。
小説などでの具体的な使い方は下記の通り。
使い方・例文
・布団を干したいが、さながら今日は雨だ。
・ゆっくり寝ていたいが、さながらそんな暇はなかった。
・小径を散歩していたが、さながら何もない。